2025/03/16
森林の消失によって大気中のCO₂濃度が極めて高くなった世界では、室内環境だけでも安全な酸素濃度を保つことが急務となる。そのため、空気清浄機に「人工光合成システム」が搭載されることが、まず大きな潮流となる。
人工光合成とは、植物の光合成過程を工学的に再現する技術であり、光(太陽光や人工光)と水、CO₂を原料として酸素と有用な化合物を生成するプロセスを指す。既に現代の研究でも、触媒や特殊な膜を用いた人工光合成の試みが進められているが、森林消失後の世界では、これをさらに高効率かつ低コストで行えるシステムが求められる。
空気清浄機の内部に光合成反応器を組み込み、室内の空気からCO₂を取り込みつつ、装置内の水との化学反応によって酸素を生成する。できあがった酸素は室内へ戻され、同時に副産物として生成される物質(メタノールなど)もエネルギー源などへ再利用できるようになる。こうして、かつて植物が担っていた酸素供給機能の一端を、家電製品で代替する未来が想定される。
人工光合成システムを備えた空気清浄機は、単にフィルターで塵や有害物質を取り除くだけではなく、「空気の組成そのもの」を改善する。CO₂濃度が高まると、人間の集中力や思考力が低下し、場合によっては頭痛やめまいなどの症状が出ることが知られている。室内CO₂濃度を下げ、酸素濃度を高めることができれば、オフィスや住居での生活の質が大きく向上するだろう。
また、酸素を余剰に生み出す装置は、医療や高齢者施設などでも広く求められるようになる。高CO₂環境下で日常が営まれる社会では、屋外に出るリスクが増大するため、日常的に酸素にアクセスできる「セーフルーム」のような空間が必要とされる。その中核を担う機器として、新世代の空気清浄機が存在するのである。
生態系のミニチュア化
森林という巨大な生態系は失われたが、空気浄化の仕組みを「生きた生態系」によって再現しようとする試みは、必ずしも途絶えるわけではない。技術者たちは、微生物や藻類、苔などの小さな生命体を空気清浄機のフィルターや内部システムに組み込むことで、自然界の浄化サイクルを縮小モデルとして実装しようとする。
たとえば、藻類は光合成によってCO₂を酸素に変換しながら成長でき、同時に水中の栄養塩類を取り込んで増殖する。微生物は有害物質や有機化合物を分解する力を持つものが多く、その働きを利用して、空気中の汚染物質をより効率的に除去することが可能になる。こうした「小さな生態系」がうまく機能すれば、従来の使い捨てフィルターに頼るよりも持続可能で、メンテナンスフリーに近い空気清浄が実現できるというわけだ。
人工光合成を補完する形で、フィルター内の微生物や藻類がCO₂や有機汚染物質を取り込み、それらを栄養源として成長し、酸素やバイオマスを生成する。バイオマスは必要に応じて取り出し、肥料やエネルギー源に利用することができる。
空気清浄機そのものが、小さな水槽や培養システムを内蔵し、定期的に水と最低限の栄養源を補給すれば、ほとんど自律的に空気浄化と酸素生成を行う「生態系装置」として機能するイメージだ。かつての森林が大地と空気、光、水を循環させていたように、その一部をぎゅっと小型化して室内に収めることで、持続的な空気浄化が期待できる。
もっとも、こうした生態系を人為的に内蔵する空気清浄機は、生物が関わる以上、従来とは異なるメンテナンスやリスク管理が必要になる。微生物が大繁殖してしまうと機器内部を損傷したり、逆に汚染源となったりするリスクもある。藻類が増えすぎると水槽が詰まる可能性もあるため、適切な照度や水質管理が必要となる。
それでも、人口が密集するドーム都市やバイオシェルター内では、「生きた空気清浄機」の存在が不可欠になるに違いない。徹底したモニタリング体制を整え、AI制御や自動クリーニングシステムを導入することで、リスクとコストを抑えながら小さな生態系を維持する技術が発達していくと考えられる。